2011/07/11

蘇鉄

遠くからでも、ひろじいがにやついているのがわかった。

ヨットハーバーで働くひろ爺が、ヨットを運搬する重機を操作しながら、
私がハーバーに来たのにきがついて、
真っ黒に焦げた顔に、まっしろい三日月のような歯をかがやかせて、
にたにたしている横顔がみえた。

またからまれる、とおもってそそくさとジョーロに水をくみ、光り過ぎている太陽にもやされながら、蘇鉄とシクラメンの大きな鉢に水をやった。
案の定、よいしょと重機を降りた白い歯が、海の方からいっそう弓形になってこちらへうれしそうに向かってくる。

どもー おつかれさまです とわたしがいうと、すぐさま
ちょっとこっちこっち、1分でいいから見に来てくれよ、と、ひろじいがハーバーの人に内緒で(バレバレ)育てている、蘇鉄の実生の赤ちゃんコレクションと、路地の割れ目から生えているのを救出したというアコウの木、ハイビスカス、だれかからもらった紫陽花、ナギの幼木を見せに私を事務所の裏側にさそった。みえないロープでしばられて連れて行かれる様な感覚で、はいはい、またね、もー まったく〜とかいいながら
わたしもにたにたついていった。
こないだとうとう怒られちまってよう、かたづけろっていわれちゃったんだよう
でもね、こっちに移動したの、みにきてよ といって、ぐんぐん謎の奥地につれてゆく。
いってみると、大事に育てていたハイビスカスは6鉢くらいあったのが、2鉢に減っていた。そしてその近くの鉢をさして これ、だめかなあ、みてよ、おしえてほしいんだよ といってカラカラの土にささってすっかり色のさめた枯木の棒となったハイビスカスの亡がらを、ぐらぐら揺らし、
こいつ、しんじゃったかなあ、でも根は生きてる気がするんだよ と嘆いた。
見てみると、もう根も張っていないし生気がない。うーん、これは、、もうだめかも、、しんじゃってるかも
というと、ひろじいは悲しそうに そうかあ、じゃあこっちの生きてるヤツのを挿し木してやるか といってしょんぼり顔で目をふせた。でもすぐさままたキラキラしだして、
こっちこっち と別のセクションへ移動。
ほいほいとついていってみると、蘇鉄の赤ちゃんコレクションがすごい増えている。
一つの鉢に10個くらいの大きな蘇鉄の種がポカンポカンと並べられている、
蘇鉄の種ってゆうのは、ちょうど親指と人差し指の先をくっつけてつくった輪と同じくらいのおおきさで、ちょうどこんな雫型をしている。数えきれないくらいの蘇鉄が生えているここでは、この種はよく落ちているのです。
これのお尻から、尻尾みたいに艶かしい黄緑色の芽がでて、一旦土にもぐって、それから再び地上に伸びてくる。
こいつは今年でたの、こいつは1年生、こりゃあでてこなかったな とひとつつつ解説するひろじーは本当にうれしそう。
あんまやってるとおこられっちゃうからよう といそいそしながら、私が水をやってた(公式に植えた)大人の蘇鉄の木をみて、これいいなあ、あっ子株 とかいってよろこぶので、
こんくらいまで育ててくださいよ とにたにた言ってみたら、そんときゃ死んでるよ、と
ちょっぴりまた悲しそうなわらい顔をした。生きててください、またみにいきますよ というと
ふたたびにっこり笑って、ちょくちょくみてやってくれよ〜といって、どもー といって私たちはその場を解散した。