2009/11/20

抱擁




あちらの方では桜が沢山咲いていた。冬に咲く品種らしい。
下まで近づくと、淡い桃色が畳み掛ける様に香りをはなって、吸い込んだ息で身体のすみずみまで花の香りに満たされた。
サクラソウ科のプリムラ ジュリアンという、銀行なんかの外に置いてあるコンテナによく植わっている花、かのじょらも、
ふんわり桜に似た香りがした。つぼみ開ききる少し前の、花がほどけかかった頃が一番香りが強かった。

日が沈むすこし前、
弱った伽羅の木を個人の邸宅から引き抜いて来ていて、それをみんな植えるところを何人も見守っていた。支柱をたてて
蘇鉄の木の横に植えられていった。なぜかみんな笑ったり、あっち向いたりしながらも、その木を植える場を囲んで離れなかった。
支柱が紐できちっとくくりつけられ、根元を突っつき棒でギュギュと突き、ざぶざぶ水をかけて根に土がすきまなく囲うようにして、土を盛って、木は植わった。こいつ復活するかな、するよ、伽羅はなんとかなるもんよ、
拍手、拍手。そして、散り散りになっていった。
しっかり土を抱きしめろよ、あなたたちの抱擁が、みんなうれしい、たすかる

植物を植える、
あたしたちゃ、植物が身体に入ってる、野菜でしょ、薬でしょ、化粧水、匂いでしょ、服も植物から作られるし、
囲われてる、わたしたちは抱擁しているのに、片方は握りしめてると、勘違いしている
または、気づいていない

土を見ていて、さらさらと綺麗な土には草が沢山芽をだすことに気がついた。
ねっちょりと粘土質に成った悪い土は、日干しにして乾かして堆肥をまぜて復活させる


今日の海は濃く青くずっしりと重かった。空はくすんでいたけど、富士山はもう半分以上雪に覆われて、空と山々と海の間に
巨大に映し出されていた、


海に沈む夕日は、海水の中で光りをおさめて眠る
わたしは毎日弱った犬と目を合わせてから眠る  
彼は夕日の様なまなざしで、私のひとみの奥を通過する